かるがもは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の賊を除かなければならぬと決意した。
かるがもには政治がわからぬ。かるがもは水辺の牧人である。笛を吹き、カエルと遊んで暮してきた。
けれども邪悪に対しては人一倍に敏感であった。
この夏、私は北へ飛び北海道は屈斜路湖を訪ねた。
湖岸に沿った林道に足を踏み入れ目的地を目指す。
北海道の山林は羆の縄張り。笛を吹き鳴らしながら歩いた。
静かな湖だ。湖に浮かぶ中島の向こうには遠く硫黄山が見える。
キュピーン!
岩場で私の第六感が反応する。ここらが奴らの隠れ家か!
辺りをうかがいながら慎重に岩場に降りる。
この北の辺境の湖、どんな生物が潜んでいるかわかったものではない。細心の注意を払わねばならない。
私の持つこの生来の臆病さが私をここまで生き延びさせてくれたと言っても過言ではない。
気配を消して水の中を探る。澄みきったきれいな湖だ。底まではっきり見える、見えるぞ!私にも敵が見える!
いた!奴だ!
この湖の岩陰に潜む生物とは!奴らの名は侵略的外来種ウチダザリガニ!
北米原産の外来種で20世紀初頭に日本に持ち込まれ解き放たれたらしい。
その強さはアメリカザリガニ以上ともいわれ、日本の生物を脅かしている。
日本の水辺の平和を守ることも、かるがもである私の大事な使命のひとつだ。
そう、今回の目的はウチダザリガニの討伐だったのだ!
私を挑発するかのように岩の上を悠然とゆくウチダザリガニ。
捕まえようとするとサッと水中に逃げ込む。
だが私をなめるなよ。今のうちにせいぜい生を楽しむがいい。
今回のウチダザリガニ討伐にあたり拝領してきた釣り糸とあたりめだ。
「武器や防具は装備しないと意味がないぜ。」
釣り糸とあたりめを装備しながら村人のアドバイスを思い出す。
フフ、あの村人「アドバイスは不要!」と言い放ったら目を白黒させていたな。
あわてて岩蔭へ逃げ込むウチダザリガニ。
だが遅い!
釣り糸に結んだあたりめを投げ込んだ。
ノコノコと這い出てくるウチダザリガニ。フフフ。
あたりめを握りしめ棲み処へと引き込もうとするところ。
今だ砕!
勝利を確信した瞬間だった。
その先は完全に一方的な私のペースだった。
岩陰の先にあたりめを落とすとおびき出されるウチダザリガニ。
喰いついたところをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
ウチダザリガニのサイズは15cm程度でアメリカザリガニよりも一回り大きいと聞いていたが、こいつらはせいぜい10cmくらい。
大物は簡単には捕まらないということか。
戦いは私の圧倒的勝利に終わった。
特定外来生物であるウチダザリガニは生かしたままでの移動禁止、再放流禁止。
だが安心するがいい。
私は食わない生き物は殺さない。
静かにたたずむ湖を眺めながら悠然と湯を沸かし始める。
ウチダザリガニの塩茹でだ。
何?エキノコックスだと?エキノコックスについてはすでに調べてある。
100℃で1分間、または60℃で10分間の加熱でエキノコックスは死滅する!
6分ほど沸騰した湯でゆでられ真っ赤に茹で上がったウチダザリガニ。
ザリガニは食べたことがないのでよくわからないが、形からするとおそらくエビと同じ要領でいいだろう。
エビのように殻をむいてゆく。
この黄色っぽいものはカニミソか?
見た目はエビのようだ。
ポン酢をかけていただくとしようか。
水がきれいなせいか臭みもなくうまい。
マヨネーズでも和えておにぎりの具にでもしたいところだな。
ウチダザリガニの味はエビとカニの中間と聞くが、確かにそんな感じだ。
あえていうならエビの食感を持つカニの味といったところか。
根室の花咲ガニに近いかもしれないな。
おわり
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